-まず始めにフォトグラファーになったきっかけを教えて下さい。

真野:『父親が写真を撮るのが好きだったので、物心がついた頃から家にミノルタのレンジファインダーカメラがあったんです。ただ父親は遠洋漁業の漁船員という職業柄、家にいないことが多くて、母親がカメラの撮り方を教えてくれました。家族を撮ったりすると「上手く撮れたね!」なんて褒められて嬉しかったですね。そしてある時、母親がミノルタのカメラを買ってきてくれて、それで小さい頃はよく写真を撮っていました。小学校高学年の頃はコニカC35を修学旅行に持っていって友達や風景などを撮っていましたね。あとはSLなどの鉄道写真を撮るのも好きでしたね。スポーツ関係ではバレーとサッカーをやっていたのでクラブ活動の時に友達の写真なんかを撮っていましたね。大学生になったとき母親が進学祝いとしてキヤノンのA1というカメラを買ってきまして本格的に撮り始めました。もう20年以上前のことですが、今でもA1は使っています。大学生の頃は工業デザイン関係の勉強をしていたのでスナップ写真を撮ることが多かったですね。スポーツ写真は撮っていませんでした。でも、プロのカメラマンになろうと決心した時にはスポーツカメラマンになりたいと思っていました。動機は意外と単純で大好きなスポーツを1番近くでタダで見られるからなんです(笑)。ただ、基本的にはやっぱり小さい頃からの親の影響で写真を撮るのが好きだったということが大きいと思いますね。』

-現在、テニス写真を中心にご活躍なさっていますが、テニスの写真を撮ることになったきっかけは?

真野:『大学を卒業したあと、カメラ情報誌「キャパ」の編集部に3年ぐらいいたんですが、「キャパ」の編集部の隣がたまたま「T.Tennis」の編集部だったこともあって、たまに「T.Tennis」の仕事もさせていただいていました。「キャパ」の編集部をやめてから独立したんですが、その後もずっと「T.Tennis」のほうの仕事はさせていただいていて、約12年間ほどT.Tennisの仕事をしていました。その頃は選手へのインタビュー、技術特集の写真、国内の大会の写真などを主に撮っていました。伊達公子選手や松岡修造選手が活躍していた頃は一般誌でも多く取り上げられていたのでそういう写真も撮っていましたね。写真週刊誌などにも記事が載っていた時代だったのでそういう雑誌の写真も撮っていたこともありました。今は「NUMBER」のテニスの写真は全て僕が担当しています。元々スポーツをするのは観るのもプレイするのも好きでしたのでスポーツ関係の写真を撮れるようになって嬉しかったですね。今でも好きな選手の写真なんか自然と枚数が多くなってしまいますね(笑)。』

-おおまかな年間スケジュールを教えていただけますか?

真野:『グランドスラム4大会(全豪、全仏、全英、全米)は必ず行っています。フェドカップ、デビスカップ、マスターズカップにも状況に応じて行っています。イベント関係、ジュニア、チャレンジャーなどにも行っています。仕事以外でも興味のある大会などがあれば個人的に行ったりすることもありますね。1年のうちに日数にすると3〜4ヵ月は海外に行っていると思います。』

-海外の大会での1日の仕事のスケジュールを教えてください。

真野:『前日に翌日行われる試合のスケジュールを見ながらだいたいこの試合とこの試合の写真を撮ろうと自分の中でスケジュールをたてます。まぁ、でも試合の進行状況によって全くスケジュール通りにいくこと滅多にないんですけどね。日本人選手の試合があるときはやはり写真を撮る優先順位が日本人選手が高くなりますね。人気選手同士の試合になるとカメラポジションの取り合いになることもあるんですが、早めに試合会場に入って場所を確保している人もいるようだけど、僕は基本的に場所取りのようなものはしないですね。それから練習やインタビュールームにも行って積極的に写真を撮るようにしています。ただ全英だけはインタビュールームにフォトグラファーは入れないようになっているのでインタビュールームの写真が撮れないんです。選手のフォトセッションがある時は大会側から連絡が入るんですが、会場内のときもあるし会場外のときもあります。女子選手なんかはファッショナブルに決めてくるので試合の時とは違った表情が撮れるので楽しいですね。フォトグラファーの中には陽の落ちた写真は(綺麗に撮れないので)いらないという人もいて、早めに仕事を切り上げてテニスしている人なんかもいるんですが、僕はたいてい最後まで残って写真を撮っていることが多いですね。夕方の落ちていく陽の中で写真を撮るのも好きなんですよ。』

-写真の撮りやすい大会(サーフェス)や撮りやすい、撮りにくい選手などありますか?

真野:『特にどこの大会が撮りやすいというのはないけど、やっぱり全仏オープンは写真を撮っていても絵になりますね。全仏は大会側がフォトグラファーの撮影ポイントをたくさん用意してくれるのでありがたいですね。あとはやっぱりフランスは食事も美味しいですし、街並みも美しいですしね。サーフェスによって撮りやすい、撮りにくいというのは特にないですけど、やっぱりラリーが長く続いているほうが写真が撮りやすいっていうのはありますね。全英だとサービスだけとかボレーだけとかで終わってしまうことも多いのでそういう意味ではシャッターチャンスが少ない大会と言えるかもしれませんね。写真の撮りやすい選手を、しいてあげるとすれば、ジュリーアラール・デュキジス、メリジェニ、フィリポーシス、アラジ、グロージャンあたりはどのショットを撮っても絵になりますね。撮りにくい選手はクエルテンは格好よく撮るのが難しい選手ですね。全身を使ってショットを打つので。あとはハンチュコワなんかも手足が長いので撮りにくいですね。インパクトの瞬間はどの選手でもそうですが、すご形相で打つので歯を食いしばった写真が多くなるんですが、その表情と普段とのギャップがハンチュコワの場合は大きすぎて、そういう意味でも撮りずらいっていうのはありますね(笑)。ヴィーナスも手足が長いので全身をおさめるのが難しいですね。あとは1位の頃の強かったヒンギスも撮りにくい選手の1人でしたね。あの頃のヒンギスは打点がバラバラだったんですよ。でも、ウィリアムズ姉妹が出てきて、パワーアップをはかっていた頃のヒンギスは打点が同じになってきて撮りやすくなりましたね。カメラマンとしては撮りやすくなったんですが、対戦相手としては逆に打点が一緒になってきたのでヒンギスと戦いやすくなったんではないかなって僕は思いました。あとは最近男女ともサンバイザーやキャップをかぶってプレーする選手が多くてそういう場合は表情が写しにくくなる時がありますね。』

-テニスの写真やスポーツ写真を撮る時に何か他の写真を撮る時とは違った心構え、注意していることなどはありますか?

真野:『僕が撮る写真というのはどちらかというとアップよりも「ひいた」感じの写真が多いんですが、その選手が武器にしているショットを格好よく撮れるように心掛けてはいますね。インパクトの瞬間、ボールを捉える瞬間というのは臨場感が出ますが、特にそれにこだわって撮るというのはあまり意識していませんね。ボールを必死になって追いかけている写真を撮ることも多いんですが、そういう体勢が崩れたりしている写真というのも好きですね。あと選手の後ろ姿などもよく撮ります。決まったカメラ位置から撮るのではなくてコートの周りを移動しながら色々な角度から選手を捉えるようにはしています。だから「真野は変な位置から写真を撮っている」なんて思われていることもあるようです(笑)。人と違ったアングルから撮るのが好きですね。プレーだけではなくて選手の感情のこもった表情や、コートに倒れ込むシーンなんかも積極的に撮るようにはしていますね。自分自身がインスピレーションを感じたら有名、無名に限らず撮っています。あとは、会場や人物、街の風景なんかもよく撮ったりしますね。子供を撮るのも好きなので子供の写真なんかも多いですね。僕は写真には撮影者自身が出るものだと思っています。もちろん被写体があるものですから写される人自身も出ますが、撮る側の持っている意識みたいなのも出ると思うんです。そういう風に写真にも個性があるから仲間内でも写真を見ただけで誰が撮ったのかだいたいわかりますね。』


-取材中のハプニングなどあったら教えて下さい。

真野:『小さいハプニングなどはよくありますが、アメリカの同時多発テロが起きたとき全米オープンの取材に行っていたので巻き込まれてしまいました。そのとき、ちょうどマンハンタンを出て、橋の上をタクシーで走っていたんですが、何やら大きな事故が起こったらしいという雰囲気を感じました。結局6日間帰国するのが遅れてしまったので、現地のホテルからスキャナで取り込んで、インターネットで写真を日本に送っていましたね。』

-写真の世界もデジタル化が進んでいるようですが?

真野:『そうですね、確実にデジタル化が進んでいるなと現場にいて実感はしますね。それでも海外に比べたらまだまだ日本は写真の世界はデジタル化が遅れている方だと思います。今でもフィルムの方がいいと雑誌社の方で言われることもありますし。僕自身は両方使っていますが、デジタルに変わって良くなったのは単純にフィルム代がかからなくなったってことかな(笑)。いつも十分なフィルムを持って仕事には行くのですが、もし足りなくなってしまったらと気にせず撮れますから。それから、夜の試合や室内の試合などフィルムに比べるとデジタルの方が完全に撮り易くなったっていうのはありますね。』

-フォトグラファーになるためには何が必要ですか?

真野:『今はカメラの専門学校などもたくさんありますが、そういうところに通って知識を得るというのも決して無駄なことではないでしょうし、良いことだとは思いますが、まずは自分がこんな映像、こんな物を撮りたいとしっかりとした信念を持つことだと思いますね。映像は流れていきますが、写真というのは一瞬です。その一瞬で対象物の全てを写してあげる、そして自分自身を写し出していく。テニスの場合だと選手と打ち解けていくと、選手も素顔を出してくれたりしていい写真が撮れたりすることもありますね。それからとにかく体力勝負のところがある職業でもあると思うので体力は必要ですね。カメラ用の機材は色々と数がかさむと重くなりますし、テニスの場合だと持ち運んで試合会場を何度も往復しなくてはいけないし、体力は絶対に必要だと思います。それから最近はパソコンを使いこなせると仕事がスムーズに運びますね。これからの時代はフォトグラファーもパソコンが必需品になると思います。僕も現場には必ずパソコンを持っていくようにしていますし、写真の管理もパソコンでしています。あとは海外取材の時に最低限の英語力は必要だと思います。』

-今はテニスを中心にご活躍なさっていますが、ほかに撮りたい写真はありますか?

真野:『人を撮るのが好きなのでドキュメンタリーものに興味はありますね。いつか撮りたいという気持ちは持っています。』

ジェニファー・カプリアティ




全仏オープンで戦うジェニファー・カプリアティ
(真野氏撮影)



*インタビューを終えて

真野氏といえばテニス雑誌等でそのお名前を目にしている方も多いことだろう。真野氏が撮った写真を見て私が感じていたことは何か違ったアングルから選手を捉えているなということだったが、それがご本人のポリシーによるものだということが、お話をうかがっている中から伝わってきた。「選手の背中からも感じるものがある。」とおっしゃっていた真野氏。そのような写真は仕事としては成り立たないものも多いそうだが、そういうものにとらわれずに自分が撮りたいと思った瞬間を撮っているという。一見簡単なことのようだがプロのフリーフォトグラファーとしては難しいことであると思う。これからも私達に何かを感じるような写真をずっと撮り続けていただきたいと思った。






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