■プロフィール・・・工業デザイナー。シューズや腕時計、アクセサリー、携帯電話、文具などのデザイナーを経て、色々なカテゴリの競技用シューズ開発のデザインに携わり、現在はテニスシューズの開発に注力している。
ふるかわデザインHP



-まず始めに現在の職業についた動機や、きっかけを教えてください。

古川:『もともとデザインや商品開発のようなモノを作る側の仕事に関心を抱いていましたが、身につけるアイテムの中でもシューズは皮革、繊維素材などのアパレル的な要素と金型を用いて作られる工業製品的な要素が同居した枠で高い機能性をスタイリッシュにまとめるという難しさに面白さを感じさせられました。テニスシューズについては、いろいろなスポーツのシューズデザインをお客様(メーカーさん)からお手伝いさせてもらい、そのなかの一つとして手掛ける機会を頂いたのがきっかけです。その難しさと奥の深さを追い掛けているうちに業務のほとんどを占めるようになってきました』



-テニスシューズが完成するまでの作業の流れを教えてください。

古川:『テニスシューズが完成するまでの作業の流れをまとめると以下のような感じになります。

■Step1
メーカーの担当者と次のモデルの企画案を構想します。 価格帯、対象者、対象者の技量レベル、サーフェス、商品位置付けなどです。この段階でメーカーの要望とこちらの戦略的な構想等を交えながらおぼろげな輪郭を練り上げていきます。 メーカーによってはここまでの企画段階を社内でとりまとめ、それを私がメーカーのデザインに盛り込むべき必須要件を確認してデザインへの下ごしらえとする場合もあります。この場合の必須要件とは、デザインのイメージとか盛り込む機能、前のモデルの長所を引き継ぎ、短所を改善するなどです。


アイデア抽出段階のスケッチ。あまり綺麗なものではなくて、出てきたアイデアを書き留めておく程度。

■Step2
次にデザインです。一般的に私のような外部のデザイナーは沢山のスケッチを用意してお客様(メーカー)に選んで頂くようなステップを踏むようですが、私の場合は 1 アイテムの依頼につきアッパー(靴の甲被の部分)で 2 点、ソールで 1 点程度しかアイデア提示していません。 お客様が納得を得られない場合はかさむ場合もありますが、限られえた時間に一人でアイデアを抽出するため、厳選したアイデアを熟成させるという考えです。前段階での企画段階でしっかり要望を受けていればデザイン的なアプローチがそんなに幾通りもあるとは思えないのと、沢山ある中からお客さんに選んで下さいというのも無責任な感じがするところからこのような形態をとっています。

デザインスケッチを描く段階。他の工業製品デザインを参考にいくつかのアイデアを出している状態。

■Step3
具体的なデザイン作業は、まず全体像(ラフスケッチ)としては、現在のデザイン的、機能的な流れ(流行)をくみとり反映させていきます。たとえば、最近では踵から爪先にかけて直線的に伸びやかな流れを感じさせるデザインが主流であるなどです。 平行してソールのデザインを考えます。パターンゾーンをどう分割させるか、どう言うパターンを使うか、どういう構造にするかを念頭に置きながら描いていきます。そしてアッパーソールをまとめ全体デザインを整えて何度も線のバランスを再考します。そしてメーカーさんにみて頂くために着色を施したスケッチを用意します。(デザイン期間は数週間くらい)その初期アイデアに対してメーカーさんの意見を仰ぎチェックを入れていきます。

アイデアを絞って色をつけたスケッチを起こしたところ。

■Step4
デザインが決まったら実際に作るに必要な資料を作っていきます。(アッパー)どう言う素材を使うか、どう言う色をつけるか、作りにくい部分はどう作るかの図解説明、素材の見本や色の見本をつける場合もあります。(ソール)パターンの高さ、ゴムの表面にどういう柄(シボといいます)をつけるか、部品の構造(シャンク等)ミッドソールの厚みなど各部の寸法などほぼほとんどの設計要件を指示する資料を作成します。こちらも状況により粘土や発泡材の模型を用意したりします。工場に渡しソールの金型を作成したり、アッパーの試作にかかります。時間的にアッパーの試作サンプルが先に上がります。それに線の修正指示を加えたり状況によっては海外の現地工場に赴いてアッパーの型紙のパターンを作ったりチェックしたりします。
アッパーの型紙をチェック、作製するところ。

■Step5
その後ソールの金型が完成し、アッパーとソールの合体した製品に近い試作サンプルが上がります。ここでソールを含めた全体の修正をかけ完成に導きます。(ここまでで修正は 1〜3 回くらいです)ほぼ完成と言う内容になりましたら実際にプレーヤーに使用してもらい、その意見を反映させて微調整を加え完成度を上げます。製品の完成です。メーカーにより各パートの期間はまちまちですが、発売の約1年前から企画や構想に入っている感じです。

 


サンプルが出来上がったところ

-テニスシューズが他のシューズと違う点はどこですか?

古川:『10 年以上にわたりいろいろな競技アイテムのシューズデザインを担当してまいりましたが、テニスはとてもデザイン(設計)の難しい奥の深い部類に入ると思います。使用するサーフェス(オール、クレイ、オムニ等)も種々にわたりますし動作も規則性を見い出すのが難しく、複雑でハードな動きをサポートしなくてはいけません。ソールは年々構造が複雑になりパーツの構成が増えてきています。それら全部が一体になったときにどこがどれだけねじれるか(適度なねじれは必要なため)を予測して細部設計にかかる経験則に頼るところも大きいです。そのようなソールと言う剛性と支持性を考えられた構造体がプレーの挙動エネルギーを受け止めるのはさながら車のシャーシ剛性とエンジン出力のバランス関係に例えられるかも知れません。どの部分を固め、柔軟にし、曲がり(曲がらず)、反発し、吸収させるかを理解して設計に当たる必要性を強く感じます。 これらの問題を耐久性をもたせ軽量に解決し、他競技シューズに比べテニスシューズは若干安価な為コストも抑えなくてはいけません。この高難易な条件がテニスシューズのデザインの難しさでもあり、面白さでもあると思います』

-仕事で難しいところや気を使うところはどこですか?

古川:『デザインについてはなるべくシンプルなものを心掛け、その線が本当に必要か?と何度も自問自答しますし、メーカーさんが想定しているユーザーさんに受け入れられる内容か?というのもデザインの検討では気を使います。また、メーカーさんには「ギア系」「ファッション系」とブランドイメージがありますのでそれを壊さない雰囲気に仕立てるというのも注意が必要なところです。テニスシューズに限らずモノ作りの現場では潤沢な時間を割いて開発業務を行うのは難しい環境にあります。限られた時間の中で質を上げると言うのが実務においての難しいところかも知れません』


-この仕事をしていて楽しいのはどんなところですか?

古川:『デザインが上がったときやサンプルが上がったとき、店頭にならんだとき、販売の結果が出たときなど開発業務の節目節目に楽しさを感じますね。また、開発業務は関わっている方、全ての連係プレーなので商品の完成度がどんどん上がって行く過程を共有させてもらう時間を過ごせる事も楽しいです。そして、最終的に使っていただける人のいろいろな意見を聞けたときには開発中とは違った嬉しさを実感します』

-今後の展望を教えてください。

古川:『今回デザイン業務の流れで紹介したモデルに、考えられる機能を凝縮した仕事を例に見ていただきましたが、機能については理想点ではなく、まだまだ追求するところや問題を解決すべきところがありこの想いを次の開発につなげたいです。現在売られているシューズは同じような価格でも性格や性能に違いや開きがあります。売れてる/売れてない、有名/不人気にとらわれず自分に合ったものを広く見い出してほしいと思います。送り手である立ち場としては、これまでのテニスシューズのちょっと面白さに欠けるデザインを面白く、本質をわすれず魅力を放つ機能性を追求し、買う人の選択肢がもっと広がる商品づくりに関わりたいと望んでいます』




 


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