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観戦記1/16(THU)
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1/16(THU)・観戦4日目

クエルテン
ついに審判の日がやってきた。我らがクエルテンは、全豪となると毎年毎年1回戦または2回戦でフルセットマッチのすえ敗退して、メディアから『最も早く去るシード選手』というありがたくない称号を贈られている。しかし、前哨戦で優勝した今年はその汚名を返上するいい機会のはずだ。 その日、私は夜明けとともに目が覚めたが、Oさんは疲れが取れないらしく、『今日は昼頃から観戦します。グガは大丈夫ですよ、3回戦のヒューイット戦はいっしょに応援しますから』とベッドから見送ってくれた。私は1回戦につき合ってくださったし、今日はひとりでも大丈夫、と身支度を整えて出発。試合はヴォーダ
フォン・アリーナ(以下VA)の第1試合(11時開始)に組み込まれていたので、8時半にチケットブースでグラウンドパスを購入。ただちにVA前のゲートに直行し開門を待つ。9時の開門と同時に自由席入り口に並び入場。コートサイドの一番前の席を確保した。まもなくクエルテンがパソスコーチとともに練習のため登場。二人はほとんど会話を交わすことなく、クエルテンは軽いストレッチを開始した。少し遅れてヒッティングパートナーが到着。さらに本日の対戦相手のステパネクもコーチとともに登場した。ステパネクの表情は、クエルテンとは対照的にやる気満々『今日はやったるで顔』であった。もともとステパネクはいつも『やったるで顔』だけど。


クエルテン・ステパネク
二人の選手はコートを半分ずつ使用して練習を開始した。1時間後に対戦する選手同士が、サッカーや野球のフィールドならまだしも、狭いテニスコートを半分ずつ使って練習する光景はいつ見ても不思議だ。と、練習風景を望遠カメラで追っている最中に気になるシーンを目撃した。なんとクエルテンがステパネクに、サーブの練習をしたいからどいてくれと言ったのだ。『え?』と言う顔で、しかし黙って立ち位置を変わるステパネク。あとから思えば、この時クエルテンは彼の闘志にスイッチを入れてしまったのではないか?考えすぎではあろうが、それくらいクエルテンは絶悪のタイミングでステパネクに申し出てしまった。しかし、当の本人はステパネクの一瞬の表情の変化に気づく様子もなし。その後ステパネクはさっさと練習を引き上げ、一方のクエルテンは、後から練習に入ってきたキム・クライシュテルズに二言三言話しかけ笑顔で合図を送った。クライシュテルズが手を振り返しながら顔を真っ赤にした表情から想像するに、クエルテンが『3回戦で当たるから彼氏によろしく』とでも言ったのだろうか。もし本当なら随分とうかつな発言だけど?さてそろそろ試合開始だが、すでに2時間近くも席を陣取っているので私もバスタイムブレイクを取りたくなってきた。しかし今日は一人だし荷物をどうするかなと悩んでいたら、空いていた隣の席に75〜80歳くらいのおばあさまが近づいてきた。『席空いてるの?』『ええ、どうぞ』という会話をきっかけに私たちは話し始めた。孫たちと来たのだが、みんな席はバラバラに座ったそう。うしろを振り返ると、いつの間にか会場はほぼ満席になっていた。おばあさまに席をキープしてもらい無事バスタイムブレイクも済ませ、いよいよ試合開始。


クエルテングスタボ・クエルテン(BRA)VSラデク・ステパネク(CHE)
とうとう2回戦が始まった。相手は昨年から台頭してきたチェコのステパネク選手。昨年のAIGにも来ていたようだから、偵察しておけばよかったか。練習中はこぢんまりとした印象だったステパネクだが、彼のサーブは予想外に威力があった。第2,第2セットのファーストサーブは何本も200kmを越え、エースの数は常にクエルテンを上回った。それでも、お互いの出方を窺っていた第1セットは、さすがにシード選手の風格でクエルテンが少ないチャンスをものにして先取。しかし、第2セットに入り相手のサーブの切れがさらによくなると、お決まりのようにクエルテンはどんどんベースラインから下がっていく。すると今度はステパネクがラリー中にドロップショットでウィナーを狙いだした。昨年ドイツでステパネクのプレーを見たOさんにあとから伺うに、彼はもともとドロップショットを多用する選手なのだそうだ。彼の最大の武器と言ってもいいらしい。そしてこれがアタマにくるほど絶妙に決まる。実際、決められるたびにクエルテンはアタマに血が上り、自分もムキになってどんどんドロップショットを使っては失敗し、窮地に陥っていった。まずい!非常にまずい展開だ。『そんなにベースラインから下がればドロップ決められるに決まってんのよ、相手はそんなに下がってないから取れるのよ!なんでわかんないの?』『ちょっとステパネク!あなたドロップショット使いすぎ!他に決め球はないの!?』と見ている私もどんどんアタマに血が上っていった。私があまりにもブツブツと独り言を言うので、横のおばあさまが『どっちの応援なの?あなたが応援する方をいっしょに応援してあげるわ』と優しく言葉をかけてくれた。 私は被っているブラジルの帽子を指さして『ブラジル人の彼の応援です。彼の試合を見るために日本から来たんです』と説明した。おばあさまは『今日はこれから暑くなるけど、彼は暑い方が好きなの?』とか『長い試合でも勝てるのね?』と何度も私に声をかけてくれた。しかしごひいき選手とともにアタマに血が上っていく私は、そのうち『はぁ』とか『うー』とか間抜けな返事しか出来なくなった。

クエルテンそして、ここでもう一つ重大なことに気づく。1回戦の時にあんなに盛り上がっていたブラジル応援団はどうしたんだ?まったく誰もと言っていいほどいないではないか!試合中、私の隣でシャンパンがぶ飲みしていたおねーちゃんは?クエルテンがバナナを食べるたびに『せ〜の』でバナナコールをしていたお兄ちゃんたちは?!アリーナ内を見回しても2,3人の単発隊がぱらぱらっといるだけだ。まさかこの試合は楽勝と判断し、次のヒューイット戦に照準を合わせたのではあるまいな?私たちのヒーローがそんなに楽観視出来るヤツではないことを知らないはずはないだろうに!一方のステパネクには在豪チェコ人おじさま応援団3名がついていて、近隣の観客を交えてチェンジオーバー毎に『ラデック!チャチャチャ!ラデック!チャチャチャ!』を繰り広げ、それを聞かされるクエルテンはさらにイライラを募らせていった。私の戦前の予想では、第3セットを取られれば間違いなくグガの負け。仮に第4セット挽回してファイナルにもつれ込んでもやっぱり最後で負けるだろうと予想していた。ファイナルに入れば鬼門の全豪ということで固くなり、攻めきれなくなるのはファンなら簡単に想像がついた。そして案の定、第2,3セットをステパネクに取られ、クエルテンは顔色を失っていった。『どうした?グガ!先週優勝したじゃない!あんなに練習もしてきたじゃない!』私はもう半泣きで叫んだ。第4セットに入ると、クエルテンは突然やけのやんぱちショットを打ち出した。こらこらこらぁ、負けに行くんじゃなーいっ!!しかし、勝利の女神はお約束のファイナルまでは保たせてやろうと思ったのか、その無茶打ちショットが何本か予想外に決まって、ドロップのタイミングを失ったステパネクが逆に焦りだし、クエルテンは第4セットを奇跡的に取り返した。もしこの時点で彼が冷静さを取り戻してファイナルに臨んでいたならこの試合は勝てたかもしれない。しかし焦りだしたステパネクにミスが出始めたことで、グガはさらに無茶打ちを続けてしまった。ファイナルに入ると、無理矢理ウィナーを狙って倍近い速度でリターンエースを決められること度々。隣のおばあさまもグガのあまりにも思慮のないプレーに負けを予感したのか『彼はどんどん相手に自分の力を与えてしまっている』と嘆いていた。まったく仰るとおりです。

クエルテン
そのお言葉、速攻でクエルテンに伝えたいよ。ふとプレイヤー席を見やると、パソスコーチも険しい表情であごに手をやったまま愛弟子を見つめていた。紛れもなく『またやっちまったか・・』という表情だった。そして、ファイナル中盤、クエルテンは最後の切り札(正確には切られ札)フットフォルトを連発しだした。これは文句なしのダメ出しとなり、集中力が完全に切れたクエルテンはサービスゲームを逆転でブレイクされ、最後のゲームもエラーで落とし、またもや2回戦フルセットでの敗退となった。思い返せばドローが出てからというもの、『ヒューイットが3回戦でクエルテンとの大一番!』というのがちまたの評判で、実現すればナイトセッションに組まれることが十分予想されていただけに、なんとも情けない結果になってしまった。調子が悪かったりどこかに故障を背負っていたのならともかく、今回ばかりは自滅としか言いようがない。 無言で帰り支度をする私に隣のおばあさまは『彼は残念だったわね、今日は運がなかったわ。あなた、また戻ってくる?席を取っておく?』と声をかけてくださった。私はジョークのつもりで『いえ、もうここには帰ってきません、このまま日本に帰ります』と言い、おばあさまは『ほほほ!でもまだいい試合はたくさんあるはずよ、楽しんで!』と笑顔で返してくださった。昨年、祖母を亡くしたばかりの私にはメルボルンのおばあさまとの出会いがせめてもの救いとなった一日であった。

 

会場を抜け出した後、VAからRLAに戻る道筋にあるワイン&チーズバーでクールダウンすべくひとり反省会を開いた。だいたい私もなんであんなにアタマに血を上らせて応援していたんだろう。相手のステパネクにまで当たり散らして、クエルテンのことなんて全然言えないではないか。毎年勝てない勝てないと取りざたされてプレッシャーをかけられれば、いくらトッププレーヤーでもへんてこりんになってしまうもんさ。来年からは全豪はエキシビジョンとでも思って気楽に臨んでみるのもいいかも。とにかく、ジンクスだの鬼門だの言うからにはその他の大会で好成績を残すのが大切。4大大会すべて2回戦負けしてたら鬼門にもならないからね。と反省するうちに懲りずに勝手に来年のことまで考えてあげていた。ほとんど病気と言ってもいい状態だが、これくらいのことで嫌気がさすようではクエルテンのファンは務まらないのだ。それにしても、選手だけでなくファンまでおかしくなってしまうとは全豪の館、恐るべし!である。



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